今年4月、娘が大学に進学した。入学の喜びも束の間、奨学金の申請手続きを進める中で、ふと手が止まった瞬間があった。
画面に表示されたのは、「利率固定方式」か「利率見直し方式」を選んでくださいという一文。どちらにしますか、と聞かれても、そもそも何が違うのかよくわからない。ざっと読んでみても、難しい言葉が並んでいるだけでピンとこない。
「これ、なんとなくで決めていいのかな?」
同じような迷いを抱えている保護者や学生も多いのではないかと思い、自分なりにJASSOの公式サイトをじっくり読み込んで調べた内容をまとめることにした。結論から言うと、調べれば調べるほど意外とシンプルな構造だとわかってきた。
1. そもそも:利子がかかるのは「第二種奨学金」だけ
まず前提の整理から。JASSOの奨学金には大きく2種類ある。
- 第一種奨学金:無利子。成績や家計に一定の基準がある
- 第二種奨学金:有利子。基準は第一種より緩やか
わが家が申請したのは第二種なので、利子がかかる。だからこそ「どちらの金利方式を選ぶか」が重要な問題になってくる。
この記事は第二種奨学金の利率方式の選択に絞った内容だ。第一種の方はそもそも利子がないので、この選択は関係ない。
2. JASSO奨学金の「固定」と「変動」、何が違うの?
「まず制度をちゃんと理解しよう」と思い、JASSOの公式サイトを読み込んだ。ざっくりまとめると以下の通りだ。
| 比較項目 | 利率固定方式 | 利率見直し方式(変動) |
|---|---|---|
| 利率の決まり方 | 貸与終了時点の利率で固定 | 貸与終了時点の利率で決定後、約5年ごとに見直し |
| 見直し頻度 | なし(全期間固定) | 約5年ごと |
| 金利上昇時のリスク | なし(固定のため影響を受けない) | あり(上昇すると返還額が増える) |
| 金利低下時のメリット | なし(固定のため恩恵を受けない) | あり(低下すると返還額が減る) |
| 上限金利 | 年3.0% | 年3.0% |
表を見ていて、ひとつ重要なことに気づいた。
「どちらを選んでも、上限金利は年3.0%」
これが、この問題を考えるうえで最も大切なポイントになる。
3. 今の金利、実際どのくらい?JASSO奨学金の利率推移
制度の仕組みはわかった。では実際の数字はどうなのか。JASSOの公式サイトで利率の推移を確認した。
以下は近年の貸与利率の推移(概算・参考値)だ。
| 年度 | 利率固定方式(概算) | 利率見直し方式(概算) |
|---|---|---|
| 2020年度 | 約0.03% | 約0.005% |
| 2021年度 | 約0.03% | 約0.005% |
| 2022年度 | 約0.03% | 約0.004% |
| 2023年度 | 約0.20% | 約0.10% |
| 2024年度 | 約1.30% | 約0.50% |
| 2025年度 | 約2.00% | 約0.90% |
| 2026年1月時点 | 約2.512% | 約1.10% |
※上記は参考値。正確な数値はJASSOの公式ページをご確認ください。
これを見て、正直驚いた。
2020〜2022年度はほぼゼロに近い超低金利だったのに、日銀がマイナス金利政策を解除した2023年以降、急速に上昇している。わずか3〜4年で固定方式は0.03%から2.512%まで跳ね上がっている。
「もし数年前に固定を選んでいたら、あの超低金利で固定できていたのに……」という気持ちにもなったが、それは結果論。今から選ぶなら、今の水準で考えるしかない。
4. 「上限3%」という安全網の存在に気づいた
調べていく中で、ある重要な事実にたどり着いた。これが記事を書こうと思ったきっかけでもある。
2026年1月時点の数字を見てほしい。
- 固定方式:約2.512%
- 見直し方式(変動):約1.10%
- 両方式の上限:3.0%
固定方式はすでに2.512%。上限の3.0%まで残り**約0.5%**しかない。
一方の変動方式は1.10%。上限の3.0%まで約1.9%の上昇余地がある。
「じゃあ変動のほうがリスクが大きいんじゃないか」と思うかもしれない。でも、ここが肝心なところだ。
上限は同じ3.0%。つまり——
「最悪の場合でも、変動方式は固定方式と同じ3%が天井」
これを理解した瞬間、選択がだいぶクリアになった。
一般的な住宅ローンの変動金利には上限(キャップ)がない。だから「変動は怖い」というイメージがある。でもJASSO奨学金の変動方式は、3.0%というキャップ付きの変動金利商品と考えていい。最悪でも天井は決まっている。
しかも、今の固定方式はすでに2.512%。変動方式が仮に3%まで上昇したとしても、固定より0.488%多く払うだけ。それが最大のリスクだ。
5. 実際どのくらい差が出るの?試算してみた
頭では理解できても、金額でイメージできないと腑に落ちない気がして、試算してみた。
試算条件
- 借入総額:300万円
- 返還期間:20年(240ヶ月)
- 固定方式:2.5%で全期間固定
変動方式:3つのシナリオ
| シナリオ | 変動の推移 | 想定状況 |
|---|---|---|
| A(楽観) | 1.1%維持 | 日銀が利上げを停止・現状維持 |
| B(中立) | 5年後2.0%、10年後2.5%に段階上昇 | 緩やかな金利上昇が続く |
| C(悲観) | 5年後に3.0%(上限)に到達し維持 | 急速な金利上昇 |
試算結果
| 月々の返還額(目安) | 総返還額(概算) | 固定との差額 | |
|---|---|---|---|
| 固定 2.5% | 約15,900円 | 約382万円 | — |
| A(楽観)1.1%維持 | 約13,900円 | 約334万円 | 約48万円 お得 |
| B(中立)段階上昇 | 変動 | 約356万円 | 約26万円 お得 |
| C(悲観)5年後3%到達 | 変動 | 約371万円 | 約11万円 お得 |
※計算は概算値。実際の返還額はJASSOの返還シミュレーターでご確認ください。
この結果を見て、率直に感じたこと。
最悪シナリオCでも、変動方式は固定より約11万円安い。これは「今の固定金利2.5%がすでにかなり高い水準にある」ことを意味している。シナリオCになっても固定とほぼ変わらないどころか、むしろ安い——この結果は少し意外だった。
6. 結局、どっちを選べばいい?
正直、絶対的な正解はない。ただ、今の金利水準をふまえると、以下のように整理できると思う。
変動(利率見直し方式)が向いている人
- 上限3%を許容できる人
- 繰り上げ返済を積極的に行う予定がある人
- 返還期間が比較的短い人
- 金利の動向にある程度関心を持てる人
固定(利率固定方式)が向いている人
- 毎月の返還額を最初から確定させたい人
- 将来の家計計画を厳密に立てたい人
- 「金利のことは考えたくない、とにかく安心感が欲しい」という人
本質的な結論
上限3%というキャップのもとでは、変動方式の最大リスクは固定方式の最悪値とほぼ同水準に収束する。
今の固定方式はすでに2.512%。上限まで残り0.5%しかない。一方の変動方式は1.1%から始まり、最悪でも3%が天井。「3%になっても返せる」と判断できるなら、変動は経済合理的な選択肢といえる。
わが家は最終的に変動(利率見直し方式)を選んだ。 理由はシンプルで、今の固定金利2.512%は上限に近すぎて、固定のメリットが薄いと判断したからだ。繰り上げ返済もできる限り積極的にやっていくつもりでいる。
おわりに:同じように迷っている人の参考になれば
申込の際にほとんど説明されず、なんとなくどちらかを選んでしまう人も多いのではないかと思う。
仕組みを理解してから選ぶのと、なんとなく選ぶのでは、長い返還期間を通じて数十万円の差が出ることもある。同じ状況で迷っている保護者や学生の、少しでも参考になれば嬉しい。
あくまでご自身の返還計画・リスク許容度に応じた判断を。
免責事項: 本記事は個人の調査・見解に基づく情報提供を目的としており、特定の金融商品への契約を推奨するものではありません。掲載している数値は概算・参考値を含みます。最終的な判断はご自身の責任でお願いします。
参考情報源:
- JASSO「第二種奨学金の利率について(利率の算定方法)」https://www.jasso.go.jp/shogakukin/about/taiyo/taiyo_2shu/riritsu_santei.html(参照:2026年4月)
- JASSO「第二種奨学金の貸与利率」https://www.jasso.go.jp/shogakukin/about/taiyo/taiyo_2shu/riritsu/index.html(参照:2026年4月)